今まで、8社以上の会社のオフィスで働き、数百社の会社のマーケティングコンサルティングをやってきて、経営者の「人材が定着しないという」悩みや愚痴を本当にたくさん耳にしてきました。IT業界をメインに経験してきたため、なおさら、そういう話を聞く機会が多かったと思います。昨今の人材不足に加えて、やっと採用した人材でも、一人前に育つ前の入社後2~3年でやめてしまうケースは本当にたくさんあります。
今回は、私の多くの会社を見てきた経験の中で、一般的に言われている「社員が辞めない会社」とはどういう会社なのか、社員が頻繁に辞めてしまう会社とはどんな特徴があるのかなど、私の経験をもとに解説していきたいと思います。後半は、一般的な話とはちょっと違うところもあるかもしれませんが、私の経験談として読んでみてください。
一般的に言われる“社員が辞めない会社”とは
一般的に言われている「社員が辞めない会社」としてよく聞くのは、「社員の成長を促進することに注力している会社」、「企業理念へ共感を重視する会社」、「働きがいのある環境を整備する会社」などではないでしょうか。それぞれ見ていきましょう。
社員の成長を促進することに注力している会社
このタイプの会社は、従業員が自身の成長を実感し、キャリアアップを目指せる環境を提供することで、定着率を高めています。教育研修制度が充実して、オンライン学習プラットフォームなども活用し、積極的に社員に学びの機会を数多く与えます。また、社外研修やセミナーへの参加を推奨して費用補助や休暇制度を設けるなどすることで、自ら学ぶ喜び提供します。さらに、メンター制度などにより、モチベーションの維持や先輩の経験に基づいたアドバイスなどをいつでも受けられるようにしているところもあります。
企業理念への共感を重視する会社
このタイプの会社は、従業員が企業理念に共感し、組織の一員としての誇りを持てるような取り組みを行っています。経営理念やビジョンを明文化して社員が理解し共感しやすい形で共有しますが、その際、定期的にワークショップなどの時間を設け、会社のビジョンを実現するためのアイデア出しなども実施します。同時に表彰式や評価制度などにも企業理念やビジョンの要素を導入します。このタイプ会社では、会社の中でどうすれば評価されるのか、会社はどんな社員を求めているのかを浸透させることで、定着率を高めています。
働きがいのある環境を整備する会社
このタイプは、多様性と包容性を尊重して、性別、年齢、文化、セクシャリティなど、多様な背景を持つ社員が活躍できる環境を整備します。住宅手当、家族手当、持株制度、保養施設などの福利厚生を充実させるとともに、近年話題となっているワークライフバランスを推奨して、仕事とプライベートの調和を図る柔軟な働き方(フレックス制度、テレワーク環境)で働けるように環境を整えます。インセンティブやボーナスなどの成果による報酬でやりがいを高めている会社もあります。
それ以外のタイプの会社もあると思いますが、一般的には上記のようなタイプもしくはそれぞれの要素を組み合わせた会社が、社員が辞めない会社として考えられていて、社員の定着率を高めるために、多くの会社がそうした要素を会社に取り入れる努力をしているのではないでしょうか。
社員が会社を辞める理由
ここで、社員が辞める理由を考えてみたいと思います。これは会社を辞めた本人から直接聞いたもの、人づてに聞いたもの、本人は直接言えなかったがなんとなくこんな理由だろうなと、私が推測したものも含めて紹介します。
給料が安かった
これは本当に給与水準が低い場合もありますが、長く働いても一向に昇給しない、給与が下がってやっていけない、昇給幅が少なかった…など、状況の違いはあります。私が興味深かったのは、主に20~30代のモチベーションの高い社員が「同業の知り合いと情報交換したら自社の給与水準が低く、同業他社の方が給与水準が高かった」という理由で転職した人がかなり多かったことです。
特にIT系企業に多いのですが、転職が一般的になっている事実があります。逆に言うと、入社して10年以上勤めようと思う人材がほとんどいないということです。2~3年でスキルを磨いたら、その経験をもとに年収アップを目指して転職するという考え方は、IT業界にいてキャリアアップを目指している社員なら、かなりの割合で浸透していると感じます。
「もっと給料を上げたい=今の給料では満足していない」というのは主観的な考えに基づいているため、いくらほしいという明確な金額があるケースの方が少ないですが、こうした不満を持っている社員は多いはずです。
業務が嫌になった
こちらも「給与が安かった」という理由と同じぐらいの比率で多いように感じます。
どういうことか広告代理店を例にしてみます。
広告代理店の営業担当者は、クライアントからいただいている予算の多寡にかかわらず、日々担当するクライアントから無理難題をいわれれたり、成果がでない/納品物のクオリティが悪い時などは、かなり厳しいお言葉をいただくことは珍しくありません。
そういうことが続くと、自然とクライアント側の仕事の方が楽だという考えが沸き上がってきます。実際にはクライアントはクライアントなりの厳しさはあるのですが、厳しく言われるシーンだけがクローズアップされ、広告代理店ではなく、クライアント側、つまり事業者側の方に転職を考えるようになります。広告代理店で勤める方はこうした考えで転職するケースが割と多くあります。
余談ですが、このように隣の芝生が青く見えて転職した場合、多くのケースで、広告代理店とは違ったクライアント側の厳しさを経験して、再度、広告代理店に戻るケースも少なくありません。私の独断と偏見の考えを言うと、広告代理店では、クライアントとの厳しいやり取りはあるものの、同僚とクライアントの愚痴を言うというストレスの捌け口があるのですが、クライアント(多くはB2C)の場合には、対象が一般消費者のため、ストレスの捌け口がなく、今まで想像していなかった厳しさに直面して、順応することができなかったというところでしょうか。
自分がやりたいことと違った
自分がやりたかった業務に就くことはできたが、実際に業務を行ってみると、想像していた業務とは違っていため、だんだん仕事が嫌になるパターンです。
- コンサルタントを目指してコンサルティングを学ぼうとコンサルティング会社に入社したのは良かったが、実際には8割以上の業務がクライアントの新規獲得業務(営業業務)だった。
- また、分析をもとに企画書をつくれるようになりたいとマーケティング部署に入ったが、実際の業務は媒体とのやりとり、素材の受け渡し、イベントの設営がほとんどで、分析をベースに企画立案している社員はほんの一部の人たちだけだった。
- 広告運用を学びたいと新卒でWeb広告代理店に入ったが、営業部署に配属されれて、新規売上の目標達成に追われる毎日だった。
こうしたギャップによる転職理由も少なくありません。
キャリアップが望めない
この理由で辞める社員も数多く見てきました。前述の自分がやりたかった業務ができずに、将来の展望が見えないということもありますが、自分がこの会社に居続けても、どうなるかわからない、どのように成長して、どんな役職につくのか、会社が示せていない場合の転職理由としてよく聞きます。
わかりやすく言うと、先輩や上司を見ても、その先輩や上司のようになりたいと思わなかったことが一番の問題なのかもしれません。先輩や上司から、会社の給与の低さや経営陣の愚痴などを数多く聞かされ、先輩や上司のように立場が上がっても、何ひとつ良いことがあるように見えなければ、会社に居続ける意味がありませんね。
その他
- 「成果が出ない」ことで精神的に追い込まれる。
- 「労働時間や休日などの条件が悪い」、「勤務地が遠い」、「転勤・移動」などの条件面で不満がある。
- 「経営者や上司が嫌い(合わない)」、「同僚と合わない」などの人間関係の問題。
- 「会社の雰囲気が悪い」というような環境の不満。
- ほとんど不可抗力ですが、「結婚」、「出産」、「育児」、「介護」、「病気・ケガ」。
退職理由としては、以上のような理由になるのではないでしょうか。
会社として退職者を出さないためには
単純に考えると、会社として退職者を出さないためには、前述のような退職理由を払しょくする対策をとることです。
しかし、完全に払しょくすることなどできません。
不可抗力的な理由は退職を回避することはほぼできませんが、それ以外の退職理由を払しょくするのもほぼ不可能に近いです。
「給料が安かった」という理由を払しょくするためには、給与水準を上げるしかありません。利益に連動せずに給与水準をあげることは、会社的には非常に厳しい決断が迫られます。つまり、すぐには対応できません。
「業務が嫌になった」人に対して、「転職してもどこも楽なところはない」ということを説得しても、嫌になった仕事を好きになる可能性はゼロに近いですし、そう思い込んでしまった後に、その考えを覆すのは至難の業です。
「自分がやりたい仕事とは違った」と思われても、業務内容を変えることは不可能です。他部署への移動という解決策もありますが、言われるたびに部署移動すると、部署の人数に偏りができるなど、現実的な対応策とは思えません。
その他の理由も同様に対応することは難しい思います。
基本的には、退職の意向が始まってからでは、対応は遅いのです。
では、退職者が少ない企業はどうしているのか?
それは、社員がこうした退職理由を頭の中で考え、退職の意向を決定する前に、様々な手段をとることです。それが第1章「一般的に言われる“社員が辞めない会社”」で紹介した各対策です。それらの対策ができれば、退職者がぐっと減り、社員が辞めない会社となることができます。
理屈でいえばその通りなのですが、物事、そんな簡単にはいきません。
「社員が辞めない会社」にできない例
「社員の成長を促進することに注力」して、「企業理念への共感を重視」させて、「働き外のある環境を整備」する会社。これが一般的に言う社員が辞めない会社だと書きましたが、それぞれに、相当なハードルがあるのも事実です。ひとつひとつ見ていきましょう。
社員の成長を促進する制度が効果を発揮しない
キャリアアップのための環境を整備するためには、オンライン学習プラットフォームなどの教育研修制度や社外セミナー参加料金の補助などの福利厚生も含めた準備が必要で、これには時間とコストがかかります。コストの課題がクリアした場合でも、それを社員が活用して、成長を実感できなければ、絵に描いた餅になってしまいます。
社員の成長を目的としたスキルアップ施策には、オンライン学習プラットフォームの提供、社外セミナー参加料金補助、書籍購入の料金補助、社内教育研修制度などがあり、コスト的な面を除けば、比較的導入しやすい制度になります。そのため、社員のモチベーションアップの目的も含めて、導入している会社も多いと感じます。
ただ、こうした制度を有効だと感じて、社員がその制度を積極的に活用している会社は、私の見る限り、一部のような気がします。
/////目的達成が図れなかった事例と理由/////
社員の離職率が高いある企業の役員が、他社で実施している定着率を高めるための施策として、社員の成長を図るための施策が有効だと聞き、オンライン学習プラットフォームを導入することにしました。Webマーケティングを展開している会社のため、Webマーケティングに関して100以上の動画が収録されているeラーニング学習システムを導入。そのほかにも、社員の声を反映して、社外セミナー参加料金補助制度、書籍購入の料金補助制度も導入しました。
結果は、1年後にこれらの制度を実際に利用した社員は、10%以下でした。継続して利用している社員はほんの数パーセントという結果となりました。もちろん離職率にもほとんど変化はありませんでした。
理由は何でしょうか。
事前に社員に対して、こうした制度があった方がいいかどうかを聞いたところ、ほとんどの社員があった方がいいと答え、それで経営側では導入を決めたわけですが、そもそも、社員に聞いたら、あった方がいいと言うに決まっています。あってもデメリットは何もないですから。
制度を導入して、ぜひ活用してくださいと言っても、社員は、昼間は多忙な業務をこなして疲れているため、よほどの理由がない限り、せっかくの可処分時間(食事、睡眠、仕事以外の自由な時間)を使ってまで、eラーニングやセミナーに参加する発想がありません。
例えば、このeラーニングを受けて社内試験に合格すると給与が上がるとか、○○○セミナーの方法を実践した社員のほとんどが1年後に営業成績上位者になっているとか、優秀な先輩が社外セミナーに頻繁に行っているなど、制度を利用することで何らかの目に見えるメリットが存在するのであれば、かなりの割合で制度を利用するでしょう。
しかし、この会社は、スキルアップ制度を用意しましたよ、と言うだけであとは社員まかせになってしまっていました。これだと制度の導入そのものが意味のないものになってしまいます。制度が活用されて、メリットを享受することができて初めて社員はその制度の良さを実感してくれるのだと思います。
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社員が企業理念に共感してくれない
企業理念や企業ビジョンを社員に理解・浸透させようとして、実現できていない会社を非常に多く見てきました。まず、一番まずいのは経営者が、企業理念や企業ビジョンを口にしたり言語化する機会がほとんどないケースです。こうしたケースでは、企業理念や企業ビジョンは間違いなく形骸化して、ホームページに掲載されているだけの言葉に風化してしまいます。
また、社長がいくら企業理念や企業ビジョンを言葉にし続けても、役員がそれに共感して幹部社員に伝え、さらに管理職、社員へとそれを共感させないと、なかなかこういうものは浸透していきません。社員で、リーダー以上の社員が、率先して理念やビジョンを体現して見せて、会社の核となる人たちが理念やビジョンをもとに行動していることをはっきりと理解させる必要があります。
これがなかなか難しいのです。理念やビジョンに掲げた内容が現状と合っているかについては、社員はすぐに気づきます。
ある会社の例を見てみましょう。
/////どこにでもあるギャップ/////
ここで、コアバリューの話をします。コアバリューは、「企業が経営するために必要な価値観・会社特有の文化」のことです。このコアバリューは、創業者が掲げた理想、つまり企業理念やビジョンではなく、善かれ悪しかれ、現在の会社に沁みついている会社特有の価値観・文化となります。このコアバリューと企業理念・ビジョンにギャップがあるかどうかは、以下の方法を使えばすぐにわかります。
会社の中で、誰が見ても会社から評価されている優秀な社員やリーダーがいると思います。そうした方を部署ごとに数名思い浮かべて、その方たちの業務に取り組む姿勢や特徴をできるだけ10個以上ピックアップしてみてください。
「毎日遅くまで残業してでも業務をやり切る」「上司への報連相はこまめにする」「まずは行動を起こす」「会社の業績は常に把握している」「大小問わず新しい取り組みを常に提案する」…などです。
ピックアップした内容で似たようなものをグルーピングして、最終的に5つぐらいの項目に絞って整理してみましょう。
(ある会社の評価されている人材の例)
- 毎日遅くまで残業している
- 細かいことでも上司への報連相を欠かさない
- 会議では積極的に発言して頻繁に新しいアイデアを提案する
- 依頼された業務はできるだけ早く終わらす
- 会社全体の利益を考えている
実は、この項目が会社で評価される最重要事項、つまり、コアバリューになります。
でも、この項目が会社が言っている内容とギャップがあることが多々あります。
会社の理念やビジョンで、「プライベートや家庭も重視してバランスの取れた環境を実現し、ワークライフバランスを重視する」ということが語られてた場合、上記で例に挙げたコアバリューとは矛盾します。
つまり、会社は、ワークライフバランスを推進していてもそれは口だけで、「毎日夜遅くまで残業している」人が評価されてる現実があります。こういう会社の社長に直接聞くと、必ずと言っていいほど「やることをちゃんとやってくれれば、残業なんかはしなくてもいい。」という答えが返ってきます。これは、裏を返せば、「結果が残せなければ、残業してでも結果を出せ。」ということになります。こういう会社は、同じくらいの結果を出している社員がいた場合、残業している社員の方が評価されます。
こうした矛盾は驚くほど多く見受けられ、社員はこうしたギャップを敏感に感じ取ります。こうした矛盾がある限り、企業理念、企業ビジョンが浸透することはないでしょう。
会社の価値観・文化が企業理念や企業ビジョンと合っていないとダメなのです。
会社のビジョンを見直そうというプロジェクトもたまに耳にします。最近では、組織開発という取り組みが盛んになってきて、組織開発のコンサルティング会社に依頼して、社員を巻き込んで、こういう会社にしたいという議論を重ね、社員の共感を得たビジョンをつくることも珍しくありません。ただ、理想としてビジョンを見直したとしても、会社の価値観や文化が、そう簡単に変わることはありません。ビジョンを見直すのであれば、会社の価値観や文化まで変えるつもりでやらなければ、何も変わらない結果となってしまいます。
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働きがいのある環境を整備しきれない
多様性と包容性を尊重して、多様な背景を持つ社員が活躍できる環境を整備するために、様々な制度を導入する企業も多くあります。住宅手当、家族手当、持株制度、保養施設などの福利厚生を充実させることは難しくないため、導入することが可能で、社員も恩恵を感じやすいので、ある程度効果はあるかもしれません。ただ、意外な落とし穴にはまった事例があるので、ご紹介します。
この事例は、ワークライフバランスの充実を目的に、採用時にワークライフバランスが充実した会社としてアピールし、リモートワークによる業務を推進した会社の一例です。
/////リモートワークの落とし穴/////
この会社では、コロナ禍より、自宅でのリモートワーク業務を開始しました。通勤時間もなく、落ち着いて業務行うことができ、業務が終わった後にはすぐにプライベートな時間が取れることから、多くの社員に好評でした。就活を行っている人がリモートワーク業務も会社選定の際の基準となっていることを人材会社から聞き、コロナが落ちついた後も、ワークライフバランスの充実を実現するという名目で、週3回(週2日は全社員出社)のリモートワークを実施して、リモートワークありきでの採用活動も続け、採用も順調でした。
そうしたなかで、リモートワークでの弊害が、少しずつですが露呈してきました。
リモートワークがなかった頃は、業務時間内に、経営層やマネジメント層が頻繁に社員に声をかけて、業務進捗を聞いたり思いついたアイデアを話し合ったり、社員同士も不明点などがあればその場で声をかけて不明点等を解決したりしていました。しかし、リモートワークになってからは、相談したいことがあっても、相手のスケジュールを確かめてからオンラインミーティングを設定しなければならず、リアルタイムでの解決が難しくなるのと同時に、何か重要な打ち合わせをしたい場合は、次の全社員出社日に合わせて打ち合わせを設定することが常態化してしまい、結果的に、業務スピードに遅れが生じてきました。
また、リモートワーク開始当初は、コロナ禍以前からの社員が多く残っていて、経営者やマネジメント層はそうした社員の性格などをある程度理解している前提でリモートワークが行われていました。つまり、経営者やマネジメント層は、社員どういう業務を行っているかがある程度想像できていました。しかし、数年が経つとコロナ禍以降に採用した社員も増え、社員の半数以上が入れ替わった形になり、経営者やマネジメント層が個々の社員を深く知る機会が減ってきました。
そうなると、よほど社員の業務管理をしっかりやらないと、経営層やマネジメント層からは、新しく入社した社員が何の業務で忙しく、何の業務で課題を感じているかを把握することができない状況になってきます。
ある時、最近入社した社員がリモートワーク中に副業を行っていることが発覚し、この会社では、リモートワークが廃止となりました。
当然、採用の際に打ち出していたリモートワーク制度に基づくワークライフバランスの充実に関しては、アピールすることを断念することになりました。
リモートワークは通勤時間が省けて効率化できるということが言われていますが、実は、上司などから離れているため、精神的に楽だというメリットを感じている社員が少なくない気がします。出社していると、上司からたびたび呼ばれて業務進捗を聞かれ、その進捗度合いによっては上司から催促が入ったり、違う部署から急な業務を依頼されたりして、自分の業務に邪魔が入ります。しかし、リモートワーク中では、そうしたことはそれほど頻繁に発生せずに自分の業務に集中することができます。それだけならいいのですが、時間的にかなりの自由度があることがわかると、業務以外のことができることに気づいてしまいます。そうした社員が多くなると、とたんに業務効率が落ちてくるのです。
コールセンターなどの相手のいる業務や、時間ごとにタスクの決まっている業務であれば、特に問題はありませんが、時間的な裁量を社員に任せる業務に関しては、社員の業務管理をきちんと考えないとこのようなことは発生することがあります。
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「社員が辞めない会社」の特徴
社員が辞めない会社にしようとして、それが失敗した例をいくつかお話ししましたが、実際に離職率の低い会社を見てきて、これまでには説明していない、ふたつの特徴があったのでお話しします。
ひとつ目は、利益が出ている会社です。利益が出ている、つまり儲かっている会社は、比較的離職率が低い印象を受けます。反対に、赤字が続いている会社、つまり儲かっていない会社は確実に退職率が高くなります。おそらく、儲かっている会社は経営層からして前向きでモチベーション高く仕事を推進できる環境にあるため、社内の雰囲気が良くなります。また、給与やボーナスも比較的上がりやすいため、給与に関する社員の不満は比較的少なくなります。反対に、儲かっていない会社は、経営者が焦っていたリ、不機嫌なため、マネジメント層にもそれが伝わり、会社全体の雰囲気が悪くなる傾向があります。もちろん、給与やボーナスに関しては上がるはずがありませんので、社員の不満は一気に高まります。
ふたつ目は、経営層側の考え方に共感するマネジメント層や社員の割合が多い会社です。個人的な好き嫌いは別にして、経営層とマネジメント層の信頼関係がある程度築けている会社では、前向きな雰囲気が社員にも伝染します。つまり、会社批判が比較的起きにくい状況になります。「経営層がダメだからこの会社は良くならない」「また新しい制度を導入してもなにもかわらない」など、斜に構える社員が多くなればなるほど、離職率は高まります。反対に、会社を批判する社員が少なければ、離職率は低くなります。
結論
長く多くの会社を見てきたり、本記事で「社員が辞めない会社」の特徴を整理したりしてみましたが、「社員が辞めない会社」にするための方法に関しては、残念ながら、こうすればいいと断言するまでには至っていません。ひとつのことをやれば、離職率が減るのかと言われれば、答えはノーです。社員が辞める理由は多岐にわたっていて、それをすべて払しょくするのは不可能だからです。
ただ、何となく見えてきたことがあります。
離職率を軽減させるためのノウハウは数多くあります。前述しましたが、組織開発に関するコンサルティング会社も多く存在して、その解決策は無数にあるように思います。
ただ、言えるのは、いくら制度を導入しても、あくまでも仕組みを導入したに過ぎないことです。一時期、仕事をするうえでの仕組化が重要だという風潮が流行り、現在に至っています。しかし、仕組化したとしてもなかなかうまくいかないこともわかってきています。
それではどうすればいいか。
仕組化したものを会社の“文化”なるまで浸透させることが重要なのではないでしょうか。
前述してきた「社員が辞めない会社」をおさらいしましょう。
社員の成長を促進することに注力する場合、会社側でオンライン学習プラットフォームを導入し、社外研修やセミナーへの参加を推奨して、費用補助や休暇制度を設けるだけではなく、社員自身が学習してスキルアップするモチベーションが高く、スキルアップすることに対して喜びを感じる社風になっていれば、その仕組みは離職率軽減にかなり寄与していると言えます。
企業理念への共感を重視する場合、従業員が企業理念に共感し、組織の一員としての誇りを持てているかがポイントとなります。定期的にワークショップを設け、会社のビジョンを実現するためのアイデア出しなども実施し、企業理念やビジョンに基づき表彰式や評価制度が行われていても、実際のコアバリューとのギャップがあれば、社員はそれをすぐに見抜きます。例えば、ワークライフバランスの実現を掲げているなら、評価されている社員が、毎日残業している社員ではなく、残業が少なく成果が出せている社員であるなど、企業理念やビジョンがそのままコアバリューになっていれば、社員は企業理念やビジョンに共感する可能性は高くなります。
働きがいのある環境を整備する場合、リモートワークを推奨して、社員が好き勝手やっていては、会社そのものが破綻します。リモートワークをやっていても、必要な時には、即座にミーティングを設定する、自分のやっている業務の報連相をこまめに実施する、そういったことが言われなくてもできる状態になっていれば、本来の意味でのワークライフバランスが実現できるでしょう。
最初は、仕組みとして導入されること自体は問題ありませんし、新たな制度を導入する場合は、仕組みそのものが重要になります。ただ、それが指示されなくても自然と運用されることで、初めてその会社の文化になったといえるのではないでしょうか。
私が、ある上場企業の取締役をやっていた際、来客したお客様から、「貴社の社員の方は、全員が礼儀正しいですね」と言われたことがありました。
確かに、言われてみれば、来客の際、お客様が入口のソファで待っている時、そこを通った社員は全員がお客様の目を見て声を出して挨拶をします。私も取締役として就任したての頃、社員が来客者に対して挨拶をしているところを見かけ、それがこの会社のルールだと思い、私自身も来客者に対して声を出して挨拶していたことを思い出しました。
ただ、この会社では、そんなことは研修の時にも教えませんし、企業理念にも書かれていません。もともと、若くして社長になった初代の代表取締役が、「若い会社だから礼儀がなっていないと外から言われたくない」と、自ら挨拶をしていたという話を聞きました。その習慣が数年経っても続いていたのです。
会社の文化にするとは、まさにこういうことだと思います。
さらに重要なポイントがあります。
企業理念やビジョンに基づく様々な仕組みが価値観や文化として醸成されされたうえで、採用する人材から考える必要があります。
スキルや能力以上に、会社のコアバリューに合った人材を採用することで、格段に離職率を減らすことができるのではないでしょうか。スキルや能力で採用した場合、その会社の価値観や文化に合っていないと、自然と人は離れていきます。それよりも、会社の価値観や文化に合う人間かどうか、それを支持してくれる人材かどうかを見極めることが離職率を減らす、つまり、社員が辞めない会社にする大きなポイントではないでしょうか。
